最長で20年間にわたり、決まった金額を非課税で積み立てられる「つみたてNISA」は、長期の資産形成を目指す方におすすめの制度です。
しかし、実際につみたてNISAの運用を検討する際には、年末調整や確定申告などの手続き面で不安を感じる方も多いでしょう。
制度を正確に理解しなければ、かえって自身の負担が大きくなる恐れもあります。
そこで今回は、つみたてNISAの運用は年末調整や確定申告が必要なのか、口座の種類別に解説します。
つみたてNISAを運用するメリットやデメリットも詳しく解説するため、これからつみたてNISAの運用を検討する方はぜひ参考にしてください。
つみたてNISAの年末調整や確定申告は原則不要
つみたてNISAで得た利益は非課税の扱いとなり、年末調整や確定申告は原則不要です。
確定申告とは個人が1年間の所得を計算し、所得税や住民税などの金額を確定させる手続きです。
また、年末調整は会社が従業員の給与から源泉徴収した源泉所得税に対しておこなわれます。
しかし、つみたてNISAでは投資から得られる利益(譲渡益)や分配金が非課税となるため、年末調整や確定申告の手続きをおこなう必要がありません。
つみたてNISAは投資家にとって税制上のメリットを享受できるのみならず、手続きの手間も省ける頼もしい制度です。
長期的な資産形成を目指す投資家には、おすすめの制度といえるでしょう。
つみたてNISAで確定申告が必要なケース
つみたてNISAの年末調整や確定申告は原則不要と解説しましたが、例外的に確定申告が必要なケースも存在します。
ここでは、つみたてNISAで確定申告が必要なケースを詳しく解説します。
ETFの配当金を「株式数比例配分方式」以外で受け取る場合
つみたてNISAを利用して投資をおこなう場合でも、ETFの分配金の受け取り方によっては、税金を支払う必要が生じます。
ETFとは、東京証券取引所などの金融商品取引所に上場している投資信託です。
ETFからは利益に応じて分配金を得られますが、分配金の受け取り方を「株式数比例配分方式」に設定することで、つみたてNISAの非課税のメリットを享受できます。
しかし、分配金の受け取り方法を「株式数比例配分方式」以外の、たとえば「登録配当金受領口座方式」や「従来方式(配当金領収証方式)」に設定した場合は、分配金が非課税となるメリットを享受できません。
ETFを運用する場合は、受け取り方法の設定に注意しましょう。なお、ETF以外の投資信託商品は、受取方法にかかわらず分配金が非課税となります。
20年の非課税期間が終了し課税口座で払い出す場合
つみたてNISAの非課税期間は20年間と定められていますが、期間が終了して資産を課税口座に移動したあとは、確定申告が必要です。
非課税期間が終了した場合、NISA口座の資産は課税口座に移されます。
そのあとも引き続き運用を続ける場合、払出した時点での価格が新しい取得価格です。
そのため、取得価格から値上がりした場合の利益は課税扱いとなり、確定申告の対象となります。
ただし、非課税期間に売却をおこなった場合は、確定申告の必要はありません。
非課税期間が終了する際の選択肢として、期間内での売却または課税口座に移して再投資の2つの選択肢があることを理解しておきましょう。
NISA口座・つみたてNISA口座以外で確定申告は必要?
ここでは補足として、NISA口座やつみたてNISA口座以外で運用をおこなった場合、確定申告は必要なのか解説します。
一般口座
NISA口座やつみたてNISA口座以外で、上場株式を運用、管理する口座を一般口座と呼びます。
一般口座での取引には、確定申告が必要です。自身で1月1日から12月31日までの1年間の売買損益を計上し、翌年の定められた確定申告の期間で手続きをおこなわなければいけません。
ただし、次の条件を満たす給与所得者は、会社の年末調整により所得税額が確定するため確定申告は不要となります。
- ・収入金額が2,000万円以下
- ・利益が20万円以下
- ・給与の支払いが1箇所のみ
一方で、損失を計上した場合は「損益通算」と「繰越損失」の制度を利用するために、確定申告が推奨されるケースも存在します。
損益通算は1年間の利益から損失を相殺することで税負担を抑える制度であり、繰越損失とは控除しきれない損失を翌年以降に繰越す制度です。
上記のように、ケースバイケースで確定申告の必要性は異なるため、理解しておきましょう。
特定口座(源泉徴収あり)
特定口座とは、取り扱い可能な金融商品が一部に限定される口座です。
源泉徴収ありの特定口座では、利益が確定した段階で源泉徴収がおこなわれます。そのため、この場合は原則として確定申告をおこなう必要はありません。
ただし、上で解説したETFの例のように、配当金の受取方法を「株式数比例配分方式」に設定していないと、受け取る配当金の確定申告をおこなう必要が生じます。
また、一般口座と同様に複数の証券口座において損益通算をおこなう場合や、繰越損失をおこなう場合には、確定申告が必要です。
自身の状況を正確に把握した上で、確定申告を適切におこないましょう。繰越控除が受けられない事態は避けてください。
特定口座(源泉徴収なし)
源泉徴収なしの特定口座の運用で譲渡益が出た場合は、原則確定申告が必要となります。
ただし、一般口座の場合と同様、年間の利益が20万円以下の場合や、給与の支払いが1箇所のみで収入金額が2,000万円以下の場合は、確定申告の必要はありません。
また、一般口座や源泉徴収ありの特定口座と同様に、損失が発生した場合は損益通算と繰越損失による税負担軽減のメリットが受けられるため、確定申告をした方がよいケースも存在します。
一般口座との大きな違いは「年間取引書」を発行できる点です。
確定申告をおこなう際に必要な損益がわかりやすく記載されるため、特定口座での運用の方が確定申告の難易度を下げられるでしょう。
つみたてNISAのメリット
ここでは、つみたてNISAのメリットを解説します。
少額から始められる点や、自身の都合のよいタイミングで引き出せる点など、表面的な税制上のメリット以外にもさまざまな魅力が存在するため、これからNISAを始めようか悩む方はぜひ参考にしてください。
少額から始められる積立投資
少額から始められる積立投資である点は、つみたてNISAのメリットのひとつです。
つみたてNISAでは、毎月100円、1,000円、1万円など、少額の単位で積立投資をおこなえます。
家計の負担にならない範囲で長期的な資産形成を目指す方には、おすすめの制度といえるでしょう。
また、引き落とし手数料などが無料で設定される金融機関が多く、手続きにかかるコストも抑えられます。
毎月の最低購入金額は金融機関毎に異なるため、公式サイトで確認してください。
譲渡益・分配金の非課税期間が最長20年
譲渡益および分配金の非課税期間が最長20年で設定される点も、つみたてNISAのメリットといえるでしょう。
通常、投資によって得た利益は課税対象です。
しかし、つみたてNISAで生じた譲渡益および分配金は課税対象にならないため、本来支払うべき税金分を再投資に充てられます。
投資で得た利益には、本来所得税および復興特別所得税、住民税を含めた20.315%の税率が適用されます。
仮に100万円の利益が出た場合、203,150円もの税金がつみたてNISAであれば免除されると考えると、メリットの大きい制度といえるでしょう。
同じ金額を定期的に購入できる積立投資
同じ金額を定期的に購入できる積立投資である点は、つみたてNISAのメリットのひとつです。
つみたてNISAの運用では、「ドル・コスト平均法」と呼ばれる手法が用いられています。
ドル・コスト平均法は定期的に一定額の投資信託を購入する手法であり、平均の購入価格を引き下げられる特徴があります。
最適な売買のタイミングを見計らう取引は難易度が高いですが、つみたてNISAであれば価格が上昇した際に利益が出しやすくなるでしょう。
価格変動のリスクを抑えて運用できる点は、つみたてNISAの大きなメリットです。
いつでも引き出すことができる
いつでも引き出すことができる点は、つみたてNISAのメリットです。
つみたてNISAでは、自身の都合のよいタイミングで積み立てた投資信託を売却できます。
引き出しの回数制限も設けられていないため、老後の資産形成を目指した長期運用以外にも、車やマイホームの購入、子どもの教育資金などさまざまな用途に利用できます。
また、つみたてNISAを引き出す際の手数料は基本的に無料です。
ただし、売却する商品によっては信託財産留保額と呼ばれる解約の費用が発生するケースもあるため注意しましょう。
いつでも積み立てを一時停止・積立額変更ができる
いつでも積み立てを一時停止、または積立額の変更ができる点は、つみたてNISAのメリットといえるでしょう。
一時停止や金額変更を希望する場合は、つみたてNISAの口座を保有する金融機関で手続きが可能です。
ライフスタイルの変化などで生活に余裕がなくなった場合でも、柔軟に対応できます。
ただし、一時停止や金額変更で年間の非課税投資枠に余りが生じても、その分を翌年に繰越すことはできないため注意しましょう。
つみたてNISAの非課税投資枠は、年間で最大40万円です。
[nlink url=”https://ieagent.jp/okane-plus/nisa-merit/”]
つみたてNISAのデメリット
ここでは反対に、つみたてNISAのデメリットを解説します。
ほかのNISAや積立制度と比較して、デメリットといえる点がいくつか存在するため、つみたてNSAをはじめる前に十分理解しておきましょう。
非課税投資枠が少ない
非課税投資枠がほかのNISAと比べて少ない点は、つみたてNISAのデメリットといえるでしょう。
NISAにはつみたてNISA以外にも2つの種類が存在します。それぞれの非課税投資枠は次の表のとおりです。
NISAの種類 | 非課税投資枠 |
---|---|
つみたてNISA | 年間40万円 |
一般NISA | 年間120万円 |
ジュニアNISA | 年間80万円 |
比較すると、最もが大きい一般NISAの非課税投資枠は、つみたてNISAの3倍の年間120万円です。
短期間で大きな金額を積み立てたいと考える方にとっては、年間40万円の非課税投資枠はデメリットとなるかもしれません。
一方で、一般NISAおよびジュニアNISAの非課税運用期間は最長で5年であるのに対し、つみたてNISAの非課税運用期間は最長20年です。
積み立て可能な金額の総額で考えると、つみたてNISAが最も多くのお金を積み立てられます。
そのため、長期的な資産運用を前提とする場合であれば、つみたてNISAが向いているといえるでしょう。
運用商品が限られている
つみたてNISAは運用商品が限られているため、投資スタイルによってはデメリットとなるでしょう。
金融庁の公式サイトでは、つみたてNISAの投資対象商品を「長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託」と記載しています。
つまり、つみたてNISAで運用可能な商品は、金融庁の定める条件を満たした投資信託やETFです。
一方で、一般NISAは上場株式や株式投資信託、ETF、REIT(不動産投資信託)など、つみたてNISAの対象商品と比べて幅広い投資商品が対象となります。
幅広い商品から投資先を検討したい投資家にとっては、つみたてNISAの限定的な対象商品はデメリットといえるでしょう。
短期間では大きな利益が得られない
短期間では大きな利益が得られない点は、つみたてNISAのデメリットのひとつです。
上で解説したように、つみたてNISAでは選択した商品を毎月一定額で購入します。
そのため、価格変動によりリスクを抑えられるメリットがありますが、裏を返せば値動きに合わせて取引し、利益の最大化を狙うことは難しいデメリットがあります。
短期間で大きな利益を得たいと考える方には、つみたてNISAでの運用は不向きといえるでしょう。
元本割れのリスクがある
つみたてNISAを運用する場合は、元本割れのリスクに注意しなければいけません。
上で解説したとおり、つみたてNISAの対象は金融庁が定める一定の基準を満たした商品に限定されます。
しかし、元本が保証される訳ではないため、評価額が下回る元本割れのリスクは0ではありません。
つみたてNISAの運用をはじめる際には、上記のリスクは理解しておくべきでしょう。
絶対に元本割れしない安全な積み立て方法を希望する方は、つみたてNISA以外の方法を検討してください。
つみたてNISAを上手に運用するポイント
上で紹介したとおり、つみたてNISAは長期的な資産形成を目指すうえでメリットが大きい制度です。
しかし、上手に運用するためにはいくつかのポイントが存在します。
ここでは、つみたてNISAを上手に運用するポイントを詳しく解説するため、ぜひ参考にしてください。
長い期間で投資をする
つみたてNISAを上手に運用したいのであれば、長い期間をかけてゆっくり投資をおこないましょう。
つみたてNISAに限らず、投資は長期的におこなうことで「複利効果」を得られます。
複利効果とは、投資運用により得られた利益を元本に加えて再投資し、より大きな利益を生み出す効果です。
長期投資を前提とした積み立てNISAでは、基準価額が上昇するたびに途中解約すると、いつまで経過しても資産を形成できません。
つみたてNISAで大きな利益を生むためには、長期間の保有を前提としましょう。
また、金融商品を長期間保有することで、配当金を繰り返し受け取れるメリットや、売買にかかる手数料などが抑えられるメリットがあります。
これからつみたてNISAで運用をはじめる方は、理解しておくとよいでしょう。
分散投資をおこなう
つみたてNISAを運用する際には、分散投資が効果的です。
分散投資の考え方は、投資の世界では基本とされています。
特定の商品に集中して投資をおこなうと、投資先の商品が値下がりした場合の損失が大きくなり、投資資産全体に深刻な影響を与えるケースも少なくありません。
投資先を分散させることで、特定の投資商品で損失が出た場合でもほかの利益と相殺でき、投資資産全体に与える影響を軽減できます。
分散投資を実際に検討する際は、可能な限り異なる値動きの商品に投資しましょう。
同じような値動きの商品に分散投資しても、リスクヘッジの意味合いが薄れてしまいます。
つみたてNISAに関するよくある質問
最後に、つみたてNISAに関するよくある質問と、回答をまとめました。
同様の疑問を持つ際は、解決の参考にしてください。
つみたてNISAと一般NISAの違いは?
つみたてNISAと一般NISAの違いを、次の表にまとめました。比較検討する際に役立ててください。
つみたてNISA | 一般NISA | |
---|---|---|
購入方法 | 積立購入 | スポット購入および積立購入 |
非課税投資枠 | 40万円 | 120万円 |
非課税保有期間 | 最長20年 | 最長5年 |
対象商品 | 金融庁が定めた基準を満たした投資信託 | 国内株式、外国株式、投資信託 |
つみたてNISAと一般NISAの大きな違いは、非課税投資枠と非課税保有期間です。
つみたてNISAは年間40万円までの金額を、最長で20年まで非課税で運用できます。
毎年上限まで非課税枠を利用した場合、20年間で最大800万円分の非課税運用が可能です。
一方、一般NISAでは年間120万円までの金額を最長で5年間非課税で運用できます。
上限いっぱいまで5年間運用した場合、一般NISAでは最大600万円分が非課税の扱いです。
上記のような特徴から、長期でコツコツと資産の形成を目指す方にはつみたてNISAが、短期間である程度大きな金額を積み立てたい方には一般NISAがおすすめといえるでしょう。
また、対象商品に着目すると、つみたてNISAでは金融庁が定めた基準を満たした投資信託のなかから投資先を選ぶ必要があり、一般NISAの方が投資先の選択肢の幅が広い特徴があります。
より自由に投資先を選択したい方は、一般NISAでの運用がおすすめです。
つみたてNISAと一般NISAは併用して運用できる?
つみたてNISAと一般NISAは、併用して運用ができません。
NISA口座は、ひとりにつき1口座までしか開設できないと決められており、開設の際にはつみたてNISAあるいは一般NISAのいずれかを選択する必要があります。
仮に一般NISAを利用中の方がつみたてNISAの口座を開設する場合は、保有しているNISA口座の内容を変更する手続きが必要です。
つみたてNISAと一般NISAのどちらで運用するか悩む方は、開設前に上記の点を理解しておきましょう。
NISA口座の変更手続きの方法については、NISA口座を保有する金融機関の公式サイトをチェックするほか、専用の窓口にて問い合わせてください。
つみたてNISAの運用は勤務先に報告が必要?
つみたてNISAの運用を開始した場合でも、勤務先に報告の必要はありません。
つみたてNISAの運用口座開設にともなう手続きは、金融機関や証券会社との間で完結します。
勤務先を絡めて手続きする必要はなく、つみたてNISAの運用を会社に知られる心配もないといえるでしょう。
また、仮に勤務先が副業を禁止している場合でも、つみたてNISAは副業には該当しないため心配は無用です。
つみたてNISAで所得控除を受けられる?
つみたてNISAで積み立てた金額や利益は、所得控除の対象ではありません。
つみたてNISAとよく似た制度に、iDeCo(個人型確定拠出年金)があります。
iDeCoではつみたてNISAと同様利益が非課税扱いとなり、加えて掛け金の全額が所得控除の対象となります。
つみたてNISAとiDeCoを混同して、つみたてNISAでも所得控除が受けられると勘違いしないように注意しましょう。
つみたてNISAの非課税期間が終わったらどうすべき?
上で解説したように、つみたてNISAの非課税期間は最長で20年です。
非課税期間が終了したあとは、おもに次の2つの選択肢が存在します。
- ・課税口座に移して運用を続ける
- ・売却して現金化する
つみたてNISAの非課税機関が終了すると、NISA口座の資産は自動的に同じ金融機関の課税口座へ再投資されます。
課税口座に移してそのまま運用を続ける方法も、選択肢のひとつです。ただし、課税口座への移管後は運用益に対して20.315%の税金が課税されます。
また、課税口座へ移管される前に売却する方法もあります。その場合は譲渡益課税が発生せず、税金の負担を抑えることができるでしょう。
まとめ
今回は、つみたてNISAは年末調整や確定申告が必要なのかを口座の種類別に解説し、運用のメリットやデメリットも紹介しました。
つみたてNISAの運用で確定申告が必要かどうかはケースバイケースです。自身のNISA口座の状態を正確に理解し、必要な手続きを遅滞なくおこないましょう。
また、つみたてNISAは一般NISAやほかの積み立て制度と比較して、長期の資産形成に適したメリットが存在します。
コツコツと少しずつ資産を形成したい方は、本記事を参考につみたてNISAの運用を検討しましょう。